新人さんが入った日の朝を思い出してください。「利用者さんの送迎、お願いね」——もしこの一言だけで送り出したら、新人さんは玄関で固まってしまいます。誰を? どこへ? 何時に? 車は?
だから私たちは、自然にこう伝えています。「Bさんを、10時に、ご自宅から事業所へ。車いすのまま乗れる車で。玄関前に段差があるから気をつけてね」。誰に教わったわけでもないのに、必要なことをちゃんと揃えて渡している。これが 引き継ぎ です。
今日の話は、これだけです。AIへの上手な頼み方は、新人さんへの引き継ぎと同じ。 あなたがもう毎日やっていることを、そのまま書けばいいんです。
AIに「お知らせ作って」と頼んだら、うちの行事と全然違う、よそよそしい文章が出てきて……。私の使い方が下手なんでしょうか。
下手なんかじゃありません。私が「まだ何も引き継ぎを受けていない新人」だっただけです。新人さんに頼むときと同じように、背景と注意点を添えてもらえたら——ちゃんと動けます。
「送迎、お願いね」だけでは、新人さんは動けない
冒頭の送迎の場面を、もう少しだけ分解してみましょう。私たちが新人さんに無意識に渡しているのは、こんな情報です。
- 誰を——Bさんを(対象)
- どこへ・何時に——10時に、ご自宅から事業所へ(具体的な中身)
- 注意点——車いす対応の車で。玄関前の段差に気をつけて(守ってほしいこと)
逆に言えば、これが抜けた「お願いね」だけの依頼は、新人さんに 当てずっぽうで動くこと を強いています。優しい先輩ほど、頼むときの一言が丁寧なのは、そのためです。
AIは、ものすごく物知りな「新人さん」
AIは、世界中の本を読んだような物知りです。でも、あなたの事業所のことは何ひとつ知りません。行事の名前も、参加するご家族の顔ぶれも、駐車場が狭いことも知らない。つまり 「ものすごく物知りだけど、今日入ったばかりの新人さん」 なんです。
物知りなので、「お知らせ作って」と言われれば、世間一般のお知らせらしきものを堂々と書いてきます。的はずれなのはAIの頭が悪いからではなく、引き継ぎを受けていないから。新人さんと同じです。
4点セット ― 背景・お願い・条件・形式
では、何を引き継げばいいのか。難しく考えなくて大丈夫。次の4行をメモの形で渡すだけです。
お願い:何をしてほしいか(一番してほしいこと)
条件:守ってほしいこと(入れてほしい中身・注意点)
形式:どんな形で出してほしいか(長さ・箇条書きなど)
送迎の引き継ぎと見比べてください。「背景」は申し送りの前置き、「お願い」は頼む用件、「条件」は注意点、「形式」は「連絡帳に書いておいてね」のような仕上がりの指定。ぜんぶ、普段やっていることの言い換え です。
実演 ― 同じお願いを、二通りで
本当にそんなに変わるのか、実際にやってみましょう。題材は、家族向けのお知らせ文の下書きです。まずは、ぼんやり依頼から。
拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。さて、このたび弊社では下記のとおりイベントを開催する運びとなりました。 記 日時:【日時をご記入ください】 場所:【場所をご記入ください】 内容:【内容をご記入ください】
物知りなだけに、それらしい文章は出てきます。でも会社の文書みたいに固くて、肝心なところは全部【ご記入ください】。当てずっぽうで動いた新人さんを責められないのと同じで、これは頼み方のせいです。では、4点セットの引き継ぎメモで。
お願い:ご家族向けの案内文の下書きを作ってください。
条件:やわらかい言葉で短く。持ち物(上ばき・飲み物)と、駐車場が少ないので乗り合わせのお願いを必ず入れてください。
形式:A4用紙の半分くらい。日時・場所・持ち物は箇条書きで、最後に連絡先の欄を作ってください。
ご家族のみなさまへ すっかり秋らしくなりました。今年も、みんなが楽しみにしている秋祭りの季節です。ぜひ遊びにいらしてください。
- 日時:10月18日(土)10時〜
- 場所:事業所ホール
- 持ち物:上ばき、飲み物
※駐車場に限りがあります。できるだけお乗り合わせのうえ、お越しください。 ご不明な点は下記までお気軽にどうぞ。 連絡先:________
同じAI、同じ日、同じお願いです。違ったのは 渡した引き継ぎメモだけ。読み比べると、「条件」に書いた乗り合わせのお願いまで、ちゃんと文章の形になって入っているのがわかります。
※上のAIの答えは、変わり方をお見せするための 例 です。実際の文面は毎回すこしずつ違いますし、日付や連絡先は必ずご自分で確かめてから使ってください。
あんしん ― 完璧な頼み方は、いりません
「4つも揃えるのは大変そう」と思った方、安心してください。全部揃わなくていいんです。
思い出してください。新人さんだって、わからなければ「何時のお迎えですか?」と聞き返してくれますよね。AIも同じで、足りないところは聞き返してくれます。さらに、最初の一言にこう足しておくと確実です。
それに、一発で決める必要もありません。出てきた答えに「もっと短く」「もう少しやわらかく」「持ち物をひとつ追加」と、会話で直していけばいい。「私には難しそう」の回でお話ししたとおり、AIとのやりとりは 話しながら直せる のが身上です。4点セットは試験の答案ではなく、会話の 最初のひと声を楽にする型——そのくらいの気持ちでどうぞ。
Geminiでも ― 頼み方は、AIの共通語です
今日の4点セットは、Claude でも Gemini でも、そのまま通じます。引き継ぎメモが上手な人はどの職場でも通用するのと同じで、頼み方はAIを選びません。ふだんお使いのAIで、さっそく試してみてください(どのAIを使うか迷ったら無料と有料の回をどうぞ)。
ひとこと: 「AIへの指示のしかた」というと、何か専門技術のように聞こえます。でも中身は、新人さんへの気づかいと同じでした。相手が動きやすいように、背景と注意点をひと言添える——新人さんに優しい人は、AIへの頼み方も上手 なんです。あなたはきっと、もう上手です。
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「こんなこと、パソコンやAIでできる?」というギモンがあれば、お問い合わせフォームからぜひ教えてください。次の「教えてAIさん」で取り上げるかもしれません。